『逆転イッパツマン DVD-BOX2』5月  捨吉さんより

●『富山敬さんとタイムボカンシリーズの想い出』音響監督 水本完

――タイムボカンシリーズでずっとナレーションを担当されてきた富山敬さんが『逆転イッパツマン』ではついに主役にキャスティングされましたが……

そうですね。笹川ひろしさんから「今回は富山さんを主役にしましょう」と言われて、「それはおもしろいですね」と話した記憶があります。

――富山さんを主役にするというアイデアは笹川総監督によるものだったのですね

そうです。笹川さんの胸の内に「いつもナレーターなどの"裏方"ばっかりで悪いなぁ」という気持ちがあったワケじゃないんでしょうけど(笑)「主役をやらせてみたい」というような想いがあったんじゃないでしょうか。
でも僕は、富山さん自身は今まで通りのナレーターの方をおもしろがってるんじゃないかと思ってたんです。ところがそうじゃなかったみたいですね。彼から具体的なことを聞いたわけじゃないんですが、豪を演じている富山さんを見ていると「やっぱり役者は主役をやるのが楽しいんだなぁ」っていう風にこちらが勝手に思ってしまうほどいきいきやってましたよ。

――富山さんのアフレコ現場での仕事ぶりなどについてお聞かせいただけますか

そもそも、僕と富山さんの付き合いは古いんですよ。僕がアニメの音響をはじめてやったのは『紅三四郎』なんですが、それよりもっと前の洋画の吹き替えの頃からの付き合いですから。
その頃彼はまだ若手だったんですけど、すでに引く手あまたでしたね。なぜかというと、あの人は声やしゃべり口調そのものに癖がなくて、いろんな役をきちんと演じ分けることができる器用な人だったからなんですよ。僕なんかも、洋画のアテレコの日程が決まると、すぐに富山さんに連絡してスケジュールを押さえてました。

――たしかに昔から二枚目も三枚目も両方やられていましたよね

でも芸達者な人は芸におぼれがちになるんだけど、彼はそうじゃなかったんですよ。どんな役でもリアリティがありました。
例えば、アニメは現実よりも感情の起伏が激しいでしょ。富山さんはそれをただ単に器用にこなしてゆくのではなく、ごく自然な流れで演じることができたんですよ。
例えば、『ヤットデタマン』でのささやきレポーターを演じる時にも、声をひそめながら3悪が馬鹿馬鹿しくやられてゆく様子をきちんと実況中継するんですよ。もう見事でしたね。

つまり、彼はどんな声を出しながらでも、その役にとって必要な事―ドラマの中で誰が誰に向かってどういう思いでしゃべっているのか、という演技の本質ですよね。これをきちんと演れる数少ない役者だったんです。
どんなに演技をするのが難しいキャラクターであっても、それを普通にこなしていました。
俳優の演技によって役がより生々と立ち上がってくる、その場の状況や人物の関係が見えてくる。どんなにとぼけたセリフをしゃべっても、その役の中身をちゃんと理解してしゃべるから「作りもの」のいやらしさが無い。そんなことが極自然にできた俳優さんでしたね。あのオダテブタの台詞なんかも、誰にも真似できない彼独特の口調があって面白いですね。

僕もこの世界に長いけど、富山さんは声優の世界で屈指の役者じゃないかな。亡くなった今でも……。
<後略>

●『遊び心をふんだんに入れて作る事ができました』総監督 笹川ひろし(富山さんの部分だけ抜粋)

――『イッパツマン』では富山敬さんを主役に推されたのは、笹川さんだということですが

富山さんは基本的にいい声でしたし、ちょっと大人っぽい感じの声質でもありましたから、"誰からも好かれるいいお兄さん"という豪に合うんじゃないかと思いましてね。
でも当初は富山さんの方に照れがあったみたいですけど(笑)。