アニメ大百科『ニルスのふしぎな旅 2』2月  捨吉さんより

 アフレコ裏話 斯波重治(録音ディレクター)インタビューより

――「ニルス」に出演している声優さんは、皆さん多忙な人たちでしょうから、スケジュール調整が大変だったのではないですか?

斯波:ええ、その辺は苦労しましたね。
完成した作品をみていてもちょっと気づかないと思いますが、レックスの富山さん、彼は何しろ多忙でして、レックスの出演の2/3くらいは「抜き」でとったんです。
「抜き」というのは彼のセリフだけを一人でとって、後から録音テープにはめ込むということです。
アフレコのときはセリフをやりとりする相手がいないのですから、タイミングその他、まかり間違えば大変なことになるのですが、そこはベテランの彼のことです。
はめ込んだあともちゃんとセリフの交流が感じられるようになっていましたね。(後略)

―― 斯波さんから見た声優全般に対する印象などお聞かせ願えませんか?

斯波:(前略) そうそう、先程ちらっと触れたレックス役の富山敬さん。
彼なんかは実のところ、最初は役の全体像がつかみきれずに、しかも「抜き」ということでずいぶん戸惑っていたんだけど、「ずる賢い上にひょうきんで、しかもやくざの下っ端ふうな巻き舌のシャベリがあれば……」と言っただけで、あのレックスの感じを出してくれたのはたいしたものです。
彼の面目躍如たるところは第48話の「レックスの新しい旅立ち」を見ていただければよくわかるでしょう。
あの悪(わる)は悪(わる)でもどこか憎めぬ間抜けなレックスが、初めてにして最後の恋人チューリップちゃんとくりひろげるラブストーリー。
これは富山さんのスケジュールの調整がついてバッチリ本番でとったものですから、彼ものりにのりまっくってやっています。
このときは本当に張り切って、フーテンの寅さんもたじたじと思うほどの日本人的情感を込めての大熱演。
これはスタジオ中でお笑いしたのを覚えていますね。
まさに富山レックスここにありといったところでしたね。
このようにたった一言のアドバイスで役はみるみる変わるというのは、見ていてたいへん気分のいいものです。(後略)